2022/07/07（木）

理屈と感性と、遊び心

特別インタビューとして、ノースアイランドビール様を訪ねました。クラフトビールへのこだわりを醸造家の中村さんにお話を伺いました。

クラフトビールってなんだ？

札幌から車を走らせること30分。小麦や米、ハスカップなどの農業が盛んな江別市にある、ノースアイランドビールを訪ねた。工場に足を踏み入れると麦の香ばしい匂いがふわっと香る。醸造家の中村さんが「どうぞ、どうぞ」と気さくに招き入れてくれた。ノースアイランドビールは創業2002年のクラフトビール会社。クラフトビールとは、スーパーに売っているような大量生産のビールとは異なり、小規模なビール醸造所（ブルワリー）で、醸造家が丹精込めて造る個性的なビールのこと。「地ビール」とも呼ばれている。「ノースアイランドビールの“個性”は何ですか？」と中村さんに問う。「一般のビールでは出せない、味わいの幅を出すために、ホップ（ビールに苦味や香りをつける植物）や小麦といったビールに使う素材の個性を最大限に引き出し、生かすのが僕らのポリシーです。ホップや麦は、北海道はもちろん、世界中からうちのビールに合う素材を発掘しているんです。それから、香り、甘み、軽やかさ、キレ、苦味、飲みごたえ、爽やかさ、ふくよかさ、コク…僕らが試行錯誤して生み出した個性が、飲んでちゃんと伝わるビールを造りたいとも思っています。」話を聞くだけで、ゴクリと喉が鳴る。

仕込みから醸造、瓶詰めまでを工場で。そのすべてが手作業。

自分たちが飲みたいものを造る

弱冠30歳の中村さん。ドイツで飲んだケルシュというビールに衝撃を受け、どうしてもビール職人になりたいと会社を辞めて、6年前、ノースアイランドビールの門を叩いた。ビール造りの難しさについてこう語る。「ビール造りは、理屈です。過去の経験則や方法論を世界中から集めてきて、方程式を参考にして造るもの。でも、方程式だけに頼っていたらありきたりなものしかできない。やっぱり、“自分がおいしいと思うか”、という感性とのバランスが大切です。」造る工程のなかで最も楽しい瞬間は？「ビール造りには発酵という工程が欠かせないのですが、ビールの元となる麦汁に酵母を加えると、次の日からぽこぽこと酵母が活動し始めます。あぁ、酵母は生きているんだなぁ〜ってワクワクしますね。その後、ホップを投入すると、いい香りがしてくる。そうやって五感で体感できる仕事です。」目を輝かせながら語る中村さんからこんな一言。「僕たちは流行を追いかけるのではなく、自分が飲みたいものを造っているんですよ！」

麦芽。噛むほどに甘く、ほんのり香ばしくて美味しい。

インスピレーションは、料理！？

ノースアイランドビールでは毎年造る定番ビールのほかに、2ヶ月に1回（なんと年6回も！）季節限定ビールを製造している。「ビールとしてのおいしさを大事にしつつ、うちの個性をちゃんと出せているか？イベントに出品したときにお客様から面白がってもらえるか？など、いろんなことを考えるので、毎回“レシピ作り”には頭を抱えています。」ビールにも、料理と同じようにレシピがあることに驚く。「僕は、“食を楽しむ”ということを大事にしていて。スパイスを使ったビールを造ろうと考えたときは、カレーを食べに行ったり。サンラータンという酸っぱくてしょっぱい中華料理から発想して、花椒とホワイトペッパーをビールに使ってみたり。」遊び心満載の季節限定ビールも俄然、飲んでみたくなる。

地元に愛されるブルワリーに

コロナ禍で家飲み需要が増えたことをきっかけに、ノースアイランドビールは毎週、工場での直売会を開催することにした。中村さんは「もっと地元の人に愛されるブルワリー（ビール醸造所）になりたいです。毎週必ず買いに来てくださる方や、わざわざ札幌から来てくださる方から、今まで知らなかったけど美味しかったよ！と言ってもらい、この方達に毎日楽しんでもらえるビールを造るにはどうしたらいいかな？と考えるようになりました。札幌市内にある『ビアバーノースアイランド』も、気軽に入ってさくっと飲める、普段の疲れを癒す憩いの場にしたいです。」まずは地元・北海道で愛される存在に。そして、その後は全国でも名の知れたクラフトビールに育てていきたいという。若き醸造家・中村さんの挑戦は続く。